Yoko Kume

モノタイプ Monotype


版画技法の一種。ガラス、金属板、アクリル、塩ビ板など平滑な支持体に図を描画し、乾燥前にその上に紙を載せてからこするかプレス機にかけることで図を転写する。モノタイプは、版に直接インクや油絵具などの描画材を用いて描画し、その上に紙をのせて圧力をかけることにより、版に描画したイメージを紙へと転写する版画技法で、モノプリントとも呼ばれることがあります。


モノタイプの「モノ」はギリシャ語であるMONOS(モノス)から由来した言葉であり、このMONOSは「ただ一つの」という意味を持っています。このことからも分かるようにこの技法は、版から同じイメージが一枚のみの印刷しかできないことが大きな特徴です。


このモノタイプ技法は、平版、凹版、凸版、孔版などの版画とは異なり複雑な製版の必要がなく、自由な描画を行うことができます。この技法を取り入れて作られたものでは、17世紀にイタリアのカスティリオーネが制作した作品が最も古く、作品は現在でも保存されています。18世紀に入るとウィリアム・ブレイクが、19世紀には、ドガやゴーギャンなど様々な作家たちがこの技法を用いて作品を残しています。また20世紀には、ピカソ、マティス、近代ではフランク・ステラ、ジャスパー・ジョーンズなどの多くの著名な作家たちがこの技法を用いて作品を制作し、現代でも様々な作家たちがモノタイプ技法を使って制作を行っています。モノタイプは版画の特徴である複数性という原則から外れるため、過去には版画の範疇からはずされる時もありました。しかし現在ではそのようなことも少なくなり、版表現また版を使用した絵画表現の手段として、この技法は使われています。

モノタイプはいくつかの制作方法がありますが、最も基本的な技法は、ガラス製やアクリル、塩化ビニルなどの樹脂製、金属製の板に、油性インクや油絵具などの描画材を用いて直接絵を描き、その上に紙をのせてバレンなどで圧力をかけて刷りとるものです。この作業を何度か繰り返し行うことで、色を刷り重ねた作品をつくることもできます。また、同様の板にローラーでインクを均一にのばし、その上に紙をのせ、紙の上から描画を行うことで板から紙へインクを転写するトランスファー技法もモノタイプ技法のひとつです。

モノタイプ技法は、使用する紙の種類によってインクや絵具のマチエールが変化するため、様々な紙に試してみるとよいでしょう。


版による表現が注目を浴びて多くの実験がなされた17世紀が生んだ技法のひとつであり、純粋なモノタイプは1640年代半ばのG・カスティリオーネの作例が初とされる。18世紀にW・ブレイクはこの技法の幻想的な表情を活かし、


19世紀後半にはE・ドガとP・ゴーギャンがモノタイプをリバイバルさせた。とりわけドガは銅板に直接描いた図を拭ったり手を加えることで微妙なグラデーションを生み出し、この技法の可能性を広げた。20世紀にはP・ピカソ、H・マティスをはじめとしてF・ステラやJ・ジョーンズなど、さまざまな作家がこの技法を試みている。類似の用語に「モノプリント」がある(同義語とされる場合もある)が、こちらは手彩色やコラージュを加えて一点ものとした版画や、版の脆弱性や可変性のため印刷が反復不能な版画を指す。

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MONOTYPE


Christina's World (1948)

Museum of Modern Art, New York.

Tempera and gesso on panel.

By AndrewWyeth.




Portrait of Ginevra d'Este (1434)

Louvre, Paris. Tempera on Wood.

By Antonio Pisanello

テンペラ-デトランプ

Monotype

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Edgar Degas, The Fireside, 1876-1877


Pissaro, Vacherie le soir, 1890

テンペラは、乳化作用を持つ物質を固着材として利用する絵具、及び、これによる絵画技法。テンペラは混ぜ合わせるという意味のラテン語Temperareを語源としている。

西洋の絵画で広く行われてきた卵テンペラには、油彩画のような黄変・暗変を示さないという特徴があり、経年による劣化が少なく、数百年前に制作された作品が今日でも鮮明な色彩を保っている。


種類[

乳化剤として鶏卵を用いる卵テンペラ、蜜蝋やカルナウバ鑞を鹸化した鑞テンペラ、カゼインを使うカゼインテンペラなどがある。


卵テンペラ

代表的なテンペラ技法が卵テンペラである。絵具が乾けばすぐに塗り重ねていくことができ、数日間乾燥すると水に溶けなくなる。板にボローニャ石膏で地塗りをしているものが古典的なテンペラ画技法であるが、近代になって油彩の仕上げに卵を混入させたものもテンペラ画と通称で呼ぶようになった。これは卵黄にレシチンやアルブミンという乳化作用がある物質が含まれているため、水と油を混ぜてもマヨネーズのように分離しないことを応用したものである。


カゼインテンペラ

カゼインは絵の目止めやメディウム、接着剤として用いられ、乳化作用をもつ。乾燥後は耐水性。温度に左右されにくく、液状だとアルカリ性だが、乾くと中性に近くなる。だが加熱したり水に入れても溶けず、アルカリ溶剤(アンモニア水、水酸化ナトリウムなど)に溶かして糊状にして使用する必要がある。膠テンペラに比べ、若干脆いが色は鮮やかである。


膠テンペラ(デトランプ)

卵やカゼインと同じように、乳化作用を持つものとして膠(にかわ、Animal glue)があげられる。ただ耐水性ではなく、亀裂を生じさせやすいため単体では殆ど用いない。添加物として明礬と水と膠を混ぜて作るドウサ水(礬水/陶砂、戻り止め)や油(亀裂防止)などを加えて使用する。


デトランプ(テンペラの一種、泥絵具)

画家仲間たちからはナビ・ジャポナール(日本かぶれのナビ、日本的なナビ)と呼ばれるほど日本趣味に高い興味を示していたナビ派の重要な画家ピエール・ボナールの、その日本趣味への傾倒が如実に示された代表的作例のひとつ『砂遊びをする子供』。またデトランプ(テンペラの一種、泥絵具)と呼ばれる独特の素材を用いて描写される抑えられた抑制的な色彩の繊細な表現も本作の大きな特徴であり、特に注目すべき点のひとつである。



テンペラによる絵画作品

イタリアルネサンス早期のジョットからフラ・アンジェリコ、ボッティチェリなどがテンペラによる作品を残している。レオナルド・ダ・ヴィンチも『最後の晩餐』で使用したが、壁画には不向きな技法であり、耐久性を高めるための技術的試みも失敗して作品の劣化を早める結果となった。

油彩画の出現以来テンペラ画は絵画技術の表舞台から退いていたが、20世紀に入ると油彩との併用による混合技法を試みるパウル・クレーやカンディンスキーのような画家が現れる。アンドリュー・ワイエスの描いた純然たるテンペラ技法の作品により、テンペラは絵画技術としてさらに注目を集めるようになった。



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